2015年06月03日

長谷川郁夫、2014、「吉田健一」



600ページほどの本だったので2週間ほどかけて読み終わった。


吉田健一 -
吉田健一 -

感想としてはちょこちょこnoteに書いていたし


そこに彼らがいた|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/na38a84799925


(長谷川郁夫「吉田健一」から)日本の「近代」文学界隈とその時代|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/n1f95a8aafc22


「吉田健一」を読み終えたお通夜として|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/nae76a0baa2dc


記憶術、ユリイカ、blackbird|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/n9dc2ee2b77dd




noteにも記したように本書は批評的な内容でもないのでまとめるのも難しく特にエントリせずに終わってもいいかなあと思ったんだけど、あとで振り返るときのためにメモ的に引用して残しておきたいところもあるのでいちお。



吉田健一についての批評的な箇所は中村光夫に依る吉田健一評のところぐらいで、それは以前に読んだ河出書房のムックの内容も想わせた。「吉田健一には嫉妬やルサンチマンのようなものが感じられない」「飄々とした魅力とそこはかとない色気がある」みたいなの。


吉田健一の流儀: muse-A-muse 2nd
http://muse-a-muse.seesaa.net/article/415497312.html

「吉田健一」を読み終えたお通夜として|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/nae76a0baa2dc


昭和32年「文藝」1月号での中村光夫による吉田健一論から




 一.「あなたの言葉には自分自身のすることに気づいてない人の魅力があります。酒の呑みかたからものの考へかたまで、あなたのやり方はまことに個性あざやかで、独特なものですが、この独自性にあなたがまったく気づいてゐないところに、あなたの随筆の面白みがあります。あへて可笑味といつてもいいでせう」、「あなたがそれに自分で気づいてゐないから、そこに生れる滑稽はさらに倍加されます」

 一.「この間の交際を通じて、僕が一番あなたに敬服したのは、あなたの自信です。自信といつてもありふれた己惚れや野心とはまつたく違ふ、なにか天与といひたいやうな精神の内部平衡です。あなたくらゐ或る意味で謙遜な、人を素直に尊敬することを知つてゐる人はない、自分で自分を虐めつけるといふ裏返しにされた青年の傲慢を、あなたほど徹底的にやつた人はない、(中略)しかしそれでゐて、あなたくらゐ自然に自分を信じられた人はないのです」

 一.「僕はあなたの強靭な精神の平衡を、真の意味の教養の賜と思つてゐます。美に対する感受性と熱情にめぐまれた者が、たまたまそれを源泉から汲む幸運にめぐりあひ、そこから生活にたへ、進んでそれを楽しむ糧を得てゐる人に独特の強みです」

 一.「あなたが批評家としてなぜもつと早く世にでなかつたかは、僕等がみな不思議に思つたことです。しかし今から思ふとあなたには、他の条件はすべて備はつてゐたが、ただ批評家にもつとも大切な資格が欠けてゐたのです。それは文学への観念的陶酔と表裏する或る餓渇、あるひはさもしさといつたもので、それにかりたてられて、彼は自己の文学映像を他人に納得させるために努力するのです」、「僕自身さういふ青年であつたから、それはよく知つてゐます」、「あなたには、さういふ餓ゑがまつたくなかつた。しがつて野心も。文学とはあなたには何かもつと血肉化した、人生を快適にするものであり、この自適のなかかから外にむかつて発現する衝動は生れなかつたのです」



それを変えたのが戦争と戦後の生活だった。

「吉田健一にとって文学は、野心とかさもしさとかといったものではなく、もっと血肉化した人生を快適にするものだった」という指摘は吉田の批評、あるいは文学の味わい方が詩を中心とし、全体の意味や内容というよりも謡としての詩を重視していたことにも通じるように思う。音楽であり時間。それは吉田晩年の時間論にも通じ、日本の、あるいは日本語の古典的な感覚、歌としての会話にも通じるのかもしれない。吉田の文章に句読点がなく読みづらいことに対して「古文は句読点はないでしょ?」と答えたというけど、そう思うと吉田の文章はそういったもので、ひとつひとつの意味というよりは全体のイメージや流れを味わうものなのかもしれない。





付箋を貼ったところを見なおしていると三島との喧嘩、三島が割腹自殺したことについての吉田のコメントもとどめておきたく思ったので軽く引用しておく。


三島との喧嘩の経緯についてはこちらに記した。

「吉田健一」を読み終えたお通夜として|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/nae76a0baa2dc


「新潮」46年2月号「三島由紀夫追悼特集」より

「その死は事故による」、「例へば交通事故で死んだものがあつた時にそれで改めてその思想とか生前の行状とかを云々するのは無意味であり、さうした死んだといふことが先に立つての詮索は週刊誌風の好奇心の仕業にすぎない」、「人間は死ぬ時に死ぬのであり、誰でもその時が来るまでは生きてゐる」、「もしここに豊かな天分に恵まれてゐて別にさうした騒ぎが仕事の邪魔にならず、逆に騒ぎによつて世相を掴む術に長け、その騒ぎの快感を仕事の刺戟に用ゐることも出来る人間がゐたらばどうだらうか」、「或はその仕事の世界での自由は仕事と騒ぎと全く切り離すに至るかも知れなくて、その点に達するならば騒ぎは騒ぎで自分から自分の楽みに、或はこれも或る形での生き方と心得て焚き付ける方向に進むといふこともあり得る。もしそのまま文学の仕事が続けられるならばその人間が文士であることに変りはなくて、ただ一流の仕事をする文士で情事が道楽であるのが媚薬の量を間違へるといふことがあつても別に驚くではない。或は蝶気違いの文士が崖に蝶を追つて墜落死することもある。先に大で示した通り、以上は三島さんのことでもある」


三島の文士としての才能は買っていたけれどその性格から名士としてちやほやされるという快感を追い続けコントロールしきれなかった。それは蝶を追って崖から落ちたような事故であり、当人の仕事を貶めるものではない、と。












あとは当時の銀座や文壇界隈の様子が伝わってきてよかった。東京の昔でありトキワ荘的なもの。その頃の銀座や東京の様子をもうちょっと省りみたくなった。


そこに彼らがいた|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/na38a84799925

銀座に川があった頃 - 新・読前読後
http://t.co/EscWpCE9dv


あるいはこういった教科書からは伝わらない日本文学 / 文壇の様子について記したものとか。江藤淳「小林秀雄」もよかったけどああいうもの。とりあえずこの辺を読んでいこうかと思っている。



江藤淳と大江健三郎: 戦後日本の政治と文学 (単行本) -
江藤淳と大江健三郎: 戦後日本の政治と文学 (単行本) -
日本文学史早わかり (講談社文芸文庫) -
日本文学史早わかり (講談社文芸文庫) -









「時間」からいくつか



時間が経っていくことを知るのが現在なのである


言葉が働きかける時にそこに常に現在がある


近代の倦怠を意識の上で堰き止められた時間の流れの圧力と見ることも出来る


一冊の本もそれそのものが時間であり、或いはそのうちにも時間があってその本も刻々と経つことが解る


もし時間がなければ一篇の詩もない



時間の存在を認めなければ喜びも悲しみもない




時間が人間を老いさせるのではなくて、その老いる人間も老いた人間も時間なのである





時間の流れがあって空間が生き、それで我々の暮らしもそれが世界で取る形も、或いは、我々の暮らしに即して世界が取っていく形もそのあるべきもの、我々が現に知っているものになるのだということは繰り返して言っておくのに値する





その夜会もサロンも舞踏会の音楽もあって、その虚しさは人生の空しさであり、それは従って一転して充実であった


刻々にたって行く時間の現在にあってそれを悲しむというのは充実の極みとも考えられる














われとともに老いよ


最上のものは、これから先にある



それは生命の最後である




生命の最初はそのために作られたのだ









金沢・酒宴 (講談社文芸文庫) -
金沢・酒宴 (講談社文芸文庫) -
時間 (講談社文芸文庫) -
時間 (講談社文芸文庫) -
英語と英国と英国人 (講談社文芸文庫) -
英語と英国と英国人 (講談社文芸文庫) -
英国の近代文学 (岩波文庫) -
英国の近代文学 (岩波文庫) -
ヨオロッパの世紀末 (岩波文庫) -
ヨオロッパの世紀末 (岩波文庫) -
訳詩集 葡萄酒の色 (岩波文庫) -
訳詩集 葡萄酒の色 (岩波文庫) -
英国の文学 (岩波文庫) -
英国の文学 (岩波文庫) -
交遊録 (講談社文芸文庫) -
交遊録 (講談社文芸文庫) -
三文紳士 (講談社文芸文庫) -
三文紳士 (講談社文芸文庫) -
吉田健一 -
吉田健一 -
乞食王子 (講談社文芸文庫) -
乞食王子 (講談社文芸文庫) -





ドナルド・キーン、三島由紀夫、中村光夫、河上徹太郎あたりも読んでいこう







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東京の「おいしい」の昔から|m_um_u|note
https://note.mu/m_um_u/n/nb6fd1ccec764



うつくしい日々: muse-A-muse 2nd
http://muse-a-muse.seesaa.net/article/409837761.html



三浦雅士「文学史とは何か」(丸谷才一全集 第7巻解説) - 日々平安録
http://d.hatena.ne.jp/jmiyaza/20150516/1431788111



posted by m_um_u at 14:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記このエントリーを含むはてなブックマーク
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