今週のThe Economist:誰がしんぶん殺したの?(@マーケットの馬車馬)
http://workhorse.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/the_economist_b814.html
Economistによる新聞業界の衰退に関する記事の要約。分かりやすくて大変ためになる。
「マスメディアの未来」というテーマを追っていくと「マスメディアの存在意義」っていうのが出てくるわけだけど、そこで過去の文献を漁っていても「文化事業だから守らにゃならんのよ〜」みたいな言い訳ばかり先行してこういうことをきちんと語っているものは少なかったりする。そういう意味ではこんな感じで外部からざっくり分析してくれたほうが変なお仲間意識とか生まれないでよいのかもしれない(ギョーカイ人は卒業したギョーカイの悪口書かないし)。
それとは別に「ジャーナリズムの社会的意義」という問題はあると思うけど今回はそちらには話を持っていかない。・・長いし。いずれ、たぶん、機が熟したらやる(・・かな)。
んで、Economistの記事に戻るけど、
「ジャーナリズムの社会的意義」関連では同誌は楽観的だったらしい。「クオリティペーパー残るだろうから大丈夫じゃん?」、とのこと。んで、「新聞の未来」について語る前段階として「新聞というメディアの性格」について経営的視点から説明している。曰く、『(新聞は)言葉を読者に、読者を広告主に売るビジネスだ』、と。
ビジネスとしての新聞は収入ということを前提に考えなくちゃいけないので、購読収入か広告収入が重要になるわけだけど、現在、購読料に頼れる新聞は少なくなってきている。一部のクオリティペーパーぐらいか?残りの大衆紙系はフリーペーパーにしてしまったほうが広告収入に頼れていい感じになってるみたい。この辺はおそらくニーズの違いということなのだろう。一個前のエントリにも絡むけど、「金を払ってでも時間を節約したい、あるいは利便性や確実性を求める」というニーズと「暇つぶしみたいな感じでメディアを消費する」というニーズがあるように思う。後者は無料のほうが好ましい。広告も情報の一部だし。ってか、いまやパブリシティとメインコンテンツの境目なんかびみょーなのかもしれない(別メディアだけど参照)。
そんな感じで大勢としては広告紙化してきている新聞業界なんだけど、日本の状況はどんな感じになっているのだろうか?
新聞購読料と新聞広告費
http://shouwashi.com/transition-newspaper.html
このサイトでも言われているように、「広告収入:購読収入=50:50」ってのがタテマエみたいなんだけどほんとのところは広告収入に頼る部分が多くなってきてるね、と。ってか、さっきも言ったように記事自体の広告化とか「どこまでがPRでどこまでが記事か分からねぇ」みたいな状況がある。それが、「世界でも屈指の高級紙(2000万部だYO!)」(yomiuri@WAN)、とのたまう国内新聞メディアの現状。
馬車馬さんところの※欄でも書かれていたけど、2000万部売ってるって言っても宅配制に依るところが大きいのであって、購読理由としては惰性とか見栄が主な理由なんだから内容とは関係ないもんなぁ・・。あと価格に関しては「文化」を担保にした再販制度が絡むし。そんな感じで日本の新聞の価値は中身ではなく外身で構成されてるんだけど、お偉方はなかなか認めようとしないんだろうな・・。「お偉方」っていうか記者一筋の人もそうなんだろうけど。関連でちょっと前にR30さんのところで出てたエントリが思い出される。
「選び、捨てる」のできないオールドメディア(@R30)
http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2007/01/post_dec6.html
以下、長いけどそのものズバリだなと思ったので引用
前々から思っていたことなんだが、最近改めてつくづく感じるのは、オールドメディア業界の人ってほとんどが「真面目な職人さん」なんだよね。ネット界隈の巷では「マスゴミ」なんぞと呼ばれ蔑まれているが、報道業務に「世間を自分の意のままに動かしてやろう」なんていう悪意を持って携わってる人間なんて、それこそナベツネぐらいのレベルのところにしかいなくて、ほとんどの記者は「これが社会のためになっている」と思いこんで日々体を壊す寸前まで働きづめになりながら、目の前に降ってくる事件を追い、ニュースをさばき、取材をこなしているのが実態なんだよね。だから、あまり知られてないけど、マスコミって40代半ばぐらいでからだボロボロになって突然死しちゃう人とか、20〜30代でうつ病になって失踪したり自殺したり引き篭もっちゃったりする人とか、普通の企業に比べてめちゃくちゃ多いわけで。
で、幸いにもそういう過酷な環境でドロップアウトしなかった人が生き残って上に上り詰めて「経営者」になるわけなんだけど、上り詰める人もはっきり言ってただの「真面目な職人さん」の一種に過ぎないのだね。たまたま多少「真面目」度がちょびっと低かったりとか、ローテーションの運に恵まれたりとかいう事情があって、過労死しなくて済んだだけのことで、本質的には一兵卒の「真面目な職人」と何ら違う人種じゃない。
そんな感じなんだろう。そして滅び行く恐竜は自らの未来を認めようとしない。状況全然違うけど、似たような経験があるのでちょっとグッと来てしまった。新聞記者の激務関連として、こんなのもある
「新聞記者を辞めたい」(@天漢日乗)
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/01/post_2a89.html
だいぶ話が逸れたけど馬車馬さんのエントリに戻ろう。
以上で見てきたように、広告収入に頼る方向(ex.フリーペーパー)と購読料収入に頼る方向の二極化が進んでいるのが現在の新聞業界の実情っぽい。で、広告に頼るってことは「スポンサーの意向によって書きたい記事が書けない」みたいな営業と編集権の問題みたいなのが頭に浮かぶけど、問題はそう単純なことでもないみたい。購読料に頼ってるからって「社会の木鐸」的なジャーナリズムを維持できるかどうかなんてびみょーだし、特に日本の場合、どこからどこまでが広告なのか分かんないみたいな問題もある。たとえば広告をやめて購読料一本に頼ったとしても、官公庁(主に警察)を情報源としてそこからの情報のコピペみたいなことをしている日本の新聞社に本当に質の高い記事を提供することができるのだろうか?昨今の社説盗用事件にしてもそういうことの証左と言えるのではないだろうか?
っつっても、新聞なんか大航海時代の貿易通信みたいなものから発生したもので、情報の伝達(同一情報の回覧)みたいなのが重視されるのだから官庁情報コピペって言ってもそんなにメクジラ立てるほどのことでもないかなぁ、とかも思うわけだけど。国家レベルだと軍国殖産と関わるし(プロトコルの統一のために必要)。
って、こう書くと記者さんの「足で稼ぐ」的な営為をバカにしているみたいで心苦しいのだけれど、やっぱそう思ってしまう。一次情報源というか、マスメディアの情報ネットワークは重要だとは思うし、こういう話題をするとよく言われるように、「文句ばっかいうけどマスコミなくなったらどうなるか分かってるの?」、ってのもあると思うけど、やっぱそれとこれとは次元が違う話だろう。
んで、それとは別に海外メディアは続々とデジタル化(ってかWeb2.0化?)をしてきているみたい。NYTをはじめとしてアメリカのメジャーな新聞はそういう流れにいるし、ほかの国の海外メディアもそんな感じ。真剣に新聞業界の危機を感じて生き残るために進化しようとしているんだと思う。以下、ざらっと例示。
ワシントンポストのサイト,市民ブロガーによるローカルニュースのカバーを計画中(@メディア・パブ)
http://zen.seesaa.net/article/31287533.html
Reuters Africa Includes Blogs(@E-Media Tidbits)
http://www.poynter.org/column.asp?id=31&aid=118901
米新聞業界にデジタルの大波(@イザ!)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/it/internet/37685
The Future of the Newspaper Industry(@Chip Griffin: Pardon the Disruption)
http://www.pardonthedisruption.com/2007/02/the_future_of_t.html
既存メディアのソーシャル化,早道はソーシャルメディアの買収(@メディア・パブ)
http://zen.seesaa.net/article/32653260.html
・・ってか、多すぎて疲れるので気になる人はぼくの「海外メディア」ぶくまみてください
こういう流れが新たな付加価値生むのかなぁ。ついでに音声データもつけて「音声+テキスト+紙メディア」みたいな分野もできるといいのに。
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関連:
日刊紙の発行部数と普及度(@新聞広告データアーカイブ)
http://www.pressnet.or.jp/adarc/data/1br/01.html
発行部数・販売部数(同上)
http://www.pressnet.or.jp/adarc/data/3link/01.html
戸別配達率(同上)
http://www.pressnet.or.jp/adarc/data/4etc/01.html
「新聞が隠してる大きな秘密とは?」(新春スペシャルその2)(@ポチは見た。)
http://www.geocities.co.jp/SweetHome/8404/sono21.htm
※押し紙問題について
フリーペーパーは儲かるか〜例えばHotPepperの広告料はいくら?(@世界の半分)
http://blog.goo.ne.jp/plauda/e/faee59b169b4b09a9f28011f85d78b45
小林恭子の英国メディアウォッチ
http://ukmedia.exblog.jp/i15
※欧州のフリーペーパー化について
あのデジタル雑誌配信システム、本格スタート(@mediologic.com)
http://www.mediologic.com/weblog/archives/001231.html
※電子ブックプラットフォームの日本での開始ということらしい。ニューズウィークとかも入ってる、と。PCで見ると疲れるので紙型電子リーダーが欲しい。
EPIC 2014
http://www.mediologic.com/weblog/archives/000559.html
EPIC 2015
http://www.albinoblacksheep.com/flash/epic
※Googlezonに統合される未来。海外メディアがデジタル化(CGM化)に積極的なのは少なからずこの動画の影響もあるのだろう。
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追記:
クオリティペーパーについては前に、「学術的な知見が綜合されるようなものができたらいいなぁ」、みたいなこと書いたけどそういう流れってないのかなぁ。。
あと、広告とメディア企業の関係としては武富士問題とかあるけど、フリーランスのネットワークでpayするメディア作れないのかなぁ・・。
Walls in Front of Freelance Journalists(@JMR)
http://www.japanmediareview.com/japan/stories/060928mcnicol/
・・記者クラブ問題とかもあるな
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