2007年02月25日

真鍋昌平、2004〜、「闇金ウシジマくん」、小学館

 2つ前のエントリでNスペの「ワーキングプアII」の感想を発掘。
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/workingpoor3.html

 「ウシジマくん」関連のレビューを書こうとしてたときに探してたのに見つからなくて歯がゆく思っていたのでちょっと嬉しい。

 良い機会なので某所に書いたレビューを転載しておく。


(以下、「ウシジマくん」レビュー)



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 先日来気になっていた「闇金ウシジマくん」をようやく読んだので感想書いとく。

 ちょっと前に「下流喰い」関連のエントリが流行ったときにこのマンガの名前が出てて気になっていたのだけれど、先日現物を手にとってみたら真鍋昌平が描いてるということで俄然興味が沸いて一気に6巻まで見てみた。

 いやぁ、おもしろい。ってか、ためになる。

 おーざっぱに言えば現代版「ナニワ金融道」で、そこにヤンキーマンガなテイスト(暴力+性な裏社会的要素、「Tokyo Tribe」的倫理観、「ヒミズ」的リアリティ)が絡んでる感じなんだけど、性描写は必要最小限に抑えてそれを売りにはしていない。

 作者が描きたいものは限界情況における人間の地力というか、そこで見えてくる人間の本質というものなのだろう。消費的幻想と離れたところにある人間の実存って感じ。それはデビュー作の「スマグラー」のときから一貫してるわけだけど、その次の作品でちょっと行き詰まりを感じていた。そこまでは資料もなく脳内にある「描きたいもの」をアウトプットしていたのだろうけど、ちょっとネタ切れ感というか、オチなし感があった。なので、「資料があったらのびるだろうになぁ」、とは思っていたのだけれどまさかこういう方向に行くとは・・。

 でも、消費者金融のような限界情況では人間ドラマが吹き荒れるってよく聞くので、良いところに目をつけたなぁ、と(編集勝ち?)。特に消費者金融よりもアレなところ(消費者金融への負債が多くなって借りられなくなった人(ブラック)が行くところ)である闇金を題材にしてるわけだからドラマいっぱいだよなぁ・・。資料大変だろうけど。

 「カネを借りる人=お金のない人=社会的弱者≠マイノリティ」ってことで、闇金の現場には知られざる世界な人々が集う(ex.OL,フリーター、ヤンキー、ゲイ、フーゾク、ギャル男(イベサー運営)・・。「知られざる世界」っていうか「身近ではあるけど内実を知らない世界」と言ったほうが良いか。そういった世界のルール、価値のようなものに対する描写もこのマンガの醍醐味と言えるだろう。

 で、それぞれの人々がそれぞれの理由で金を借りに来るわけだけど、個人的にはその理由の多くが「見栄」のためのように感じられた。「コミュニティでいいカッコをするための見栄」、「付き合いのための見栄」。そのために自分が必要とする以上のものを買い、買い続けるためにカネをムリに工面する。

 この辺りは阿呆と言えばそれまでなのだけど、リアルに切実な問題かもしれない。人間は純粋な効用だけを求めて生きられる動物ではないということなのだろう(cf.「肉を食わなくても必要な栄養分を摂取できるのに肉を食べる」)。

 欲望や幻想を喰らうと言うことなのだろうけど、その多くの場面で一部のコミュニティ内における幻想が個人の幻想に優位する。だからと言ってそれ自体を厳しく断罪し、節制するというのもなんかPTAっぽくて違和感があるけど。

 あと、個人的理由で消費をコントロールできなくなる場合でも「ストレスに対するガス抜き」という効用があるのだろうから一概に否定できない。っつっても、程度の問題なのだろうけど。
 
 ってか、人脈を重視する場合はハブられると情報が入ってこなくなるので「コミュニティで仲良くする」ということは死活問題なのかもしれない。


 で、


 ウシジマくんはそれらの人々を「奴隷くん」と呼ぶ。ウシジマくんに「10日五割」で貢ぐ奴隷くん。こう書くといかにも悪徳高利貸しのウシジマくんだけがこの世界の王のように君臨しているかのように思われるかもしれないけど、ウシジマくんはウシジマくんでリスクを背負っている。

 闇金という職業柄、人並みの社会的保護は受けられないので責任はすべて自己責任。ケーサツに相談できないので、債務者に飛ばれても泣き寝入りするしかない(探すけど)。その辺のところは債務者もよく分かってるので3人に2人が飛ぶらしい。金貸しババァやヤクザにも頭を下げなければならない(必要以上に低身にはならないけど)。つまりウシジマくんも弱肉強食のルールの中で生きている。


  「喰われたくなかったら喰らえ」


 それがウシジマくんの人生哲学みたい。イベサー・ジュンのセリフで「金も力もねぇ、地方出身のオレがのし上がっていくには人脈しかねぇんだよ!」みたいなのがあったけど、ウシジマくんの場合は暴力がそれに当たるのだろう。もしくは暴力を基本としつつ金・人脈を拡げて行ったか(その場合、知力もいる)。そういったサバイバルゲームの中で弱肉強食の人生観(リアリズム)が染み付いていったのだろう。

 でもこのエートスに則ってるヒーローって往々にして最後には破綻するんだよなぁ。。それは人間的な良心の限界ということなんだけど。もしくはそこで良心という弱点を持たないところがウシジマくんの強さの原動力になってるのかもしれないけど、それは弱さの裏返しだったり(そこをウサギで補完? cf.クロとシロ)。この辺り、作者はどう折り合いをつけていくのだろうか。いままで通りの結末だと「オチなし」って感じになるだろうけど。



 まぁ、とりあえずそんなこんなで(どんなこんなだけど)、ウシジマくん自体は下流喰い的な内容が分かりやすくまとめられているマンガなので一読をお勧めする。ただ、家に置くのはちょっと嫌かもしれないのでレンタルとかマンガ喫茶なんかがあればそこで読んだほうがいいかも。



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追記:
そういやユヌスのグラミン銀行も広い意味での高利貸しだったっけ?

マイクロファイナンスと、高利貸しのポジティブな役割(@山形浩生の『ケイザイ2.0』 第21回 、HotWired Japan_Altbiz)
http://hotwired.goo.ne.jp/altbiz/yamagata/010227/textonly.html


マイクロファイナンスあれこれ:来世を借金のかたに取る(@山形浩生 の「経済のトリセツ」)
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20061018/p1


日本の高利貸しも貸し倒れのないように仕事の斡旋をするって話は見たことがある。たとえば坪ビジネスなタコ焼き屋とか。「ウシジマくん」でこの辺の話もやってくれないかなぁ。。




タグ:マンガ
posted by m_um_u at 09:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | レビューこのエントリーを含むはてなブックマーク
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