日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)
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岡田 英弘
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主張としては「日本は中国から生まれた」というもの。箇条書きにすれば
・もともと日本は中国のコロニーの一つとして誕生した
・中国ももともとは国家って感じでもなく経済を中心とした共同体。中国は巨大な商社で中国皇帝はその社長。商業とそのためのネットワーク(物資の輸送路)が主目的となっていたため、その目的のために共同体や制度が組まれていった。
・水路がネットワークの基本だったんだけどそのハブポイント、川と川の交差点や待合いが必要な地点に都市ができていった(ex.洛陽(もともと洛陽を中心として中国は成り立っていた)
・中国もいくつかの人種・共同体の寄せ集め的な感じ(漢民族が中心とされるけど漢のあと国が乱れて統一するときに北のほうの人種が強くなったりしたし)
・日本だけでなくアジア圏の国はだいたい中国のコロニーが出自。朝鮮、東南アジアももともとそんな感じ。中国という企業の利益確保のために外部の圏域、コロニーが広がっていった。城塞都市として
・各コロニーにはもともと住んでいた現地人もいたが貿易の仲介役として華僑が多く移り住み、現地でハイステータスな存在になっていった
ここまでは主に「中国とそのコロニーとして生まれていった周辺諸国」との関連。最初の出自はそんな感じだけど、ではどういう経緯で独立していったのか?日本を例に取ると
・日本は中国の外圧から生まれた
・中国に取り込まれないように分離独立していた共同体が集合して「国」としての体裁をとるようになった
・その時期は天智天皇-天武天皇のころ。歴史的には天智天皇が百済の応援に駆けつけたのに百済と日本が新羅に負けてしまったとき。新羅のバックには中国がついていたので「このままでは中国にとりこまれる」危機感をもって近畿の倭国を中心として「日本」という国家としてまとまっていった。
・百済への応援、白村江の戦いのだいぶ以前には中国のコロニーとして、中国がバックにいることで便益を得ていた(ex.漢の奴の倭の国王、卑弥呼)。しかし黄巾党の乱などにより中国の人口が激減し各コロニー統制まで手が回らなくなった時期に夫々のコロニーの現地首長たちが独立していった。白村江の戦いはその支配権を守るための戦いだった
・天智天皇の後、天武天皇のころに国家としての中国からの独立性を主張するために日本書紀が編まれた。
・神話の歴史は日本書紀から生まれていった。日本書紀は「倭国を中心とした天皇家はずーっと以前から日本をすべていてそれは神々からもたらされた王権だから正統なもの」と主張するために書かれたものなので歴史的記述としては疑わしいものがある。
・たとえば日本書紀とその後に書かれた古事記を合わせるとところどころ矛盾する記述がある。中国の歴史書との比較でも同様。 てか、歴史書なんかその時代の支配者に都合の良いように書かれてるのでその共同体と直接の利害関係のない外部の歴史から比較していかないとわかんない。(なのでこの本では中国の歴史を参考にした
だいたいこんな感じ
「古事記と日本書紀の記述にズレがある」というのは天津神と国津神の記述における矛盾なんかが気になってたのでそうだったのかぁとか思ったり。
なにせ「天照の前にイザナギ・イザナミが国生みした」とか日本書紀なんかでは言ってるようなんだけど、一方で「天之御中主神を中心とした三柱神が天地創造をした」とか「大国主が大地を創造した」とかわけわかんないので。。誰が一番偉いねん。。大地なんこあるねん。。
こういう疑問も日本書紀であまりにも倭国寄りにつっぱしった記述になったのを当時に近畿の倭国と同じぐらいの強さをもっていた吉備方面の国に対して配慮して「あなたのところの神様(大王のご先祖さま)も国生みしてましたよね」的にしちゃったのかな?って思うと解決する。あとはもともとあった民間信仰とか地方ごとの信仰への配慮とかつじつま合わせとか。
そんでまあこんな感じで整合性ぐちゃぐちゃになるのでほかにもツッコミどころ満載になっていって「ホツマ」なんかも出てきたり。
鳥居 礼
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ここで書かれてた「薩摩隼人の辺りとかスサノオ-ヤマタノオロチ伝説辺りなんかは不倫だらけだもんねー」ってのはなんかよかった。史料検証的にどうなのかな?とか思うけど、当時の中国地方とか九州辺りの豪族なんかがそういうことあったのかなって感じ。
「日本史の誕生」のほうに戻ろう。
この本もヽ(´ー`)ノマンセーって感じで全部信じるのもどうかな?とか思うんだけど「各国の歴史なんか当時の支配者の都合の良いように書かれてる。なので、該当箇所の記述に関して利害関係のない外部の史料を参考にしないとダメだ」ってのはまさにその通りだと思うし説得力あるなぁ、と。
ほかに細かい記述のうんぬんというよりも歴史の見方の大筋みたいなのが吸収できて個人的には良かった。たとえば「中国という国は商業とそのためのネットワークが基本となっていたのでその目的のために共同体や制度が組まれていった。周辺諸国はもともとそのためのコロニーとして成り立っていった」というのは生産様式とそのためのネットワークって感じで分かりやすい。
自分的にはこれまで<農耕なんかで貯蓄(ストック)ができ、それを奪い合うために武力的集中が必要になり国家が生まれていった>って感じでみていた。人口動態的な俯瞰図でみれば農業を契機に世界の各所で点在的にハブが誕生し、それらが集まってより大きなハブになっていくようなイメージ。柄谷行人の「世界共和国へ」なんかは財を調達するための手段として「生産」「交換」のほかに「略取(武力による収奪)」があり国家なんかはそのために生まれた、みたいな説明がしてあって分かりやすかったように思うんだけど、基本的にはこのモデルに当てはまると思う。
ところがこの本では「商業を中心として中国という大きなハブが人工的に各所にハブを産み出していった」って書いてあって、「ああ、なるほろ。点在的に発生したと考えるよりもこっちのほうが分かりやすいなー」って思った。そうなると漠然と持っていた「武力の時代 > 経済力の時代 > (情報力の時代)」なんて区分けもびみょーになってくるな。経済のほうが前だし、てか経済ずっとあるから武力と同じカテゴリでもないだろし。まあ、あれはイニシアティブがより民衆側に移っていった(と思われる)際のゲームの変化みたいに見るべきなのだろうけど。
とりあえずそんな感じでなんかわかりやすかったので続けてこれ読む
世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)
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あと、自分の歴史エントリ的にはこれと対照にしてもおもろいかなー
muse-A-muse 2nd: 原田信男、1993、「歴史のなかの米と肉」
http://muse-a-muse.seesaa.net/article/108950402.html
これも天武発祥だったな
あと、網野善彦『「日本」とは何か』とか「中世再考」なんかもゲットしちゃってるのでついでに